昨晩、仕事で帰宅の遅くなった私は、一人、明かりもまばらな夜の路を歩いていた。
元々人通りの少ない田舎の路がこんな時間ともなれば辺りは一層静まり返り、人の姿はまるで無い。
「随分と遅くなってしまった。」
と、
闇の中、私以外の何者かの靴音が路を鳴らしている。
「・・・・・。」
眼を凝らす。
男だ。
年の頃にして50代半ば。
くたびれたシャツを着た白髪の男。
腰を基点に男の上半身がフラフラと揺れる。
酒の匂いはしない。
が、酷く虚ろな眼であった。
その怪しい風体におもわず身構える。
男の右手に何かが握られている事に気が付いた。
手元が暗がりになっていて良くは見えないが
何かを握りしめ、ゆらりゆらりと振られる腕はこちらを威嚇しているようにも思える。
意識したわけでもなく、じとりと汗をかいた私の右手が拳になる。
男が持っている物はなんだ?
刃物か?はたまた重量を持つ鈍器か?
・・・いや、いや違う。
あれは・・・あれはバイブだ。
ピンク色で起伏のある凸部、根元で小さく二股に分かれたあの形状、明らかにバイブ。
男の右手が「ウィンウィンウィンウィン」と小さな駆動音を発している。
完全にバイブ。
バイブが揺れ、男の上半身が揺れる。
男はバイブを持ち歩いていたのだ。そう、まるでアクセ感覚で。
バイブが揺れ、男の上半身が揺れる。
―――晩景の街、COOL STREET
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